写真を撮りながら・・・レンズで見る形と色彩

写真を撮りながら考えることども
 


写真を撮りながら心に浮かぶ雑念を書いてみる。撮影に没頭すれば、そのウェブ・アップの過程も含めて雑念など浮かぶ暇もないはずだが、どうもそんなに簡単ではないのが日常だ。


 

♦  2008年7月27日、「A3ノビを100枚ほどプリントした印象」
♦  2008年3月7日、「時に突然、寒色系のプリントが出る問題−2」
♦  2008年2月16日、「時に突然、寒色系のプリントが出る問題−1」
♦  2007年12月27日、「やっとA3ノビに印刷し、飾ってみたら・・・」
♦  2007年12月7日、「A3ノビ・顔料フォトプリンター、その後の2」
♦  2007年10月15日、「A3ノビ・顔料フォトプリンター、その後の1」

♦  2007年9月26日、「A3ノビ・顔料フォトプリンター」
♦  2007年8月26日、「最近のディジタルSLRカメラ」
♦  2007年8月19日、「ヒューイ、Huey」
♦  2007年7月26日、「最適なDSLRカメラはどれか?」
♦  2007年6月28日、「ディジタル電子映像システム−(2)」
♦  2007年6月18日、「ディジタル電子映像システム−(1)」

( New! )   2008年7月27日、「A3ノビを100枚ほどプリントした印象」

   EOS−5D で撮影した画像を顔料インク・プリンター PIXUS Pro9500 でA3ノビに100枚ほどプリントした。覚悟はしていたことだが、インクが高い。A3ノビ以外のサイズもプリントしているから正確なA3ノビ1枚当たりのインク代は概算になるが、1枚につき$6〜$7になる。用紙もセミ・グロスがバルクで1枚当たり$1.50ほどするから、プリンターの償却などは除外した単純原価は、A3ノビ1枚当たり$7.50〜$8.50、失敗などもあるから最大約$10といったところだ。もしRitzカメラに頼んで同じ位のサイズにプリントすれば1枚$20はするから、思い通りに色調を調整し編集できてその半分で済むことを考えれば、その価値と利益は小さくはない。

   時には知人に見せて、「これはいい」などと少しでも評価が高ければ、すぐ額装して強引に押し付けるごとくに貰ってもらいなどするから、その時の満足感は高い。こんな状況を加味すれば、1枚$10は決して高くないともいえる。

   さて問題は、この顔料プリンターのプリント品質だ。まずグロスとセミ・グロスで

  1. ハイライト部と中間濃度部の諧調度と発色はすばらしい。
  2. 暗部の諧調度は全くだめ。ベッタリつぶれ。
  3. 全体に、切れのよい透明感が少ない。

これがこの顔料プリンターでA3ノビを100枚プリントした時点での印象だが、昼間の戸外写真の多い筆者にとって、全体として、不満は大きいがマーマーといったところだ。

   暗部の諧調度は、プリントを斜めに構えて光の反射を見れば、黒くつぶれたところに黒インクがベッタリ載っているのが良く分かる。これほど載せなければ黒を表現できないインクは、もっと改良が必要だ。こうはいっても、一点だけ疑問がある。同じ画像をアート紙フォトラグにプリントすると、暗部の諧調度はよほど改善される。この原因の一つに用紙別のプリンター・プロファイルの設定条件がからむから、ソフトウェアー(DPP+Easy−PhotoPrint Pro)に用意されたグロスとセミ・グロス用のプロファイルが最適か、という疑問が残る。

   この問題を解明するには、プリンターのプロファイルを自作する必要があるが、x-rite の ColorMunki など安いプロファイラーでも$450もするし、まだ買いたいレンズもあるから少し先の話になるだろう。
 

   2008年3月7日、「時に突然、寒色系のプリントが出る問題−2」

   時に突然、シアン被りとも思える寒色系のプリントが出現する問題に悩まされていることは数回書いた。いろいろEOS−5Dの使用経験が増え実験も重ねたが、この問題はこのカメラ特有の、ホワイトバランス自動補正時に発生する「カラーフェリア」、すなわちホワイトバランス自動補正時のカメラ側の失敗とほぼ断定できた。

   下の2枚の写真を見て欲しい。左はカメラが自動補正を失敗した写真、右はこれをキャノンのDPPで色温度6300度に色温度補正したものだ。カメラの撮影条件は、ホワイトバランス:自動補正、露出:プログラムAE、絞り:F8.0、ISO:100、焦点距離:50ミリ、ピクチャースタイル:スタンダードで撮影したが、左はRAWデータをそのまま縮小し「jpgフォーマット」に変換したもの、右はそのRAWデータをDPPで手動で色温度補正し、縮小し「jpgフォーマット」に変換したものである。 (人物の目隠しはアドビ・フォトショップ)

画像クリックで拡大 画像クリックで拡大

小さい写真では分りにくいが、拡大して比較すれば、左の、カメラが失敗した写真のシアンが必要以上に濃いことが分る。これが今まで頭を悩ましてきた問題だったのだ。

   なぜこんなことが起るのだろうか?その秘密は画面の左半分にあると思う。よく観察すれば、人物の後に広がる積み上げた石垣は茶色で、更にその左下部の石畳も薄い茶色の石板が敷いてある。この茶色が曲者だと思う。キャノンEOS−5Dに使われているホワイトバランス自動補正のアルゴリズムを知らない。しかし一般的に考えられるのは、撮影した画像のRGB夫々の色の要素(信号)の強さを計算し、ある値以上に3色のバランスが崩れていれば、設定してある標準昼光色光源から外れた状況での撮影と見做せるだろう。 もしこのようなアルゴリズムを使っていたら、この画像の場合は茶色成分が多いから、カメラはタングステン電球(白熱灯)の下で撮影したものと判断するだろう。その色温度は3000度位だから、茶色あるいは黄色やマジェンタ成分を減色して5200度相当まで自動補正するだろう。だから不必要にシアンが濃いのだ。こう考えれば説明がつくように思う。

   またこの写真を撮影した時刻は正午に近い乾燥した快晴時だったから、人物の頭上にある太陽が照らしていた色温度は、空気層での吸収エネルギーが最小の6000度から6500度くらいだったろうと思う。こう考えると、DPPで6300度まで補正を加えてほぼ適正な色温度の色調になったのだ。 筆者の知る範囲では、ホワイトバランス自動補正の詳細はキャノンから公開されていないから、上の記述の検証は不可能で、あるいはこの推定が間違っているかもしれない。しかし今までシアン被りだと思うシーンは茶色の要素の多いものが多く、それ以外にも、正午近い快晴時のシーンに多かったように思う。

   これらを総合して考えると、EOS−5Dの標準色温度設定は、キャノン標準設定の5200度より少し高めに設定したほうが良さそうである。 以上独断を書いたが、似たような経験をされた方々のご意見はどうであろうか。

   2008年4月7日の後日談:たまたまこの青っぽい Raw Data を Adobe Photoshop Elements 6.0 で開く機会があった。今まで専用に使ってきたDPPでは撮影時の色温度を表示しないが、 Elements 6.0 は表示する。それには4750度と出ていた。晴天下の日中で撮ったものの自動ホワイトバランスがどう補正されたか知らないが、4750度では「シアンかぶり」になっているのはあたりまえだ。少なくとも5200−5500度まで来ていなければならない。残念ながらEOS−5Dの工場設定の自動ホワイトバランスには問題がある。

   Elements 6.0 で他の画像を見てみたが、おおむね色温度は低めだ。だから自動ホワイトバランスの基準値の再調整が必要なことがわかったし、カラー・フェリアーがないときの画像でも、今まで散々苦しんだシアン系にころぶ色調の理由が断定できた。説明書を読むと、カスタム・ホワイトバランスの取り方や、自動ホワイトバランス基準値の補正の仕方が出ているから、グレー・チャートを買ってきて自動ホワイトバランスの再調整をすることにした。
 

2008年2月16日、「時に突然、寒色系のプリントが出る問題−1」

   PCモニターと顔料プリンターの関係は、過去に書いたごとく、色調を好みにプリントする観点から一応定番の設定値が決まり始めた。

   これに気をよくして色々な所に行ってはシャッターを切ることになったが、最近改良したい点をいくつも認識することになってきた。構図の決め方であったり、カメラ・アングルの選び方であったり、ズーム・アングルの選び方であったり、絞りの設定すなわち被写界深度の選び方であったり、シャッター・ボタンのブレない押し方であったりと、これはマズイと次々に改良点が出てくる。

   基本撮影技術の一つだと思うシャッター・ボタンのブレない押し方など、ディジタル写真になってPCモニター上で簡単にオリジナル画像を等倍に拡大して細部を観察できるから、その下手さ加減が明らかになる。特にEF24-70mm F2.8L USMレンズを付けると、かなりボディー重量のあるEOS‐5Dでもバランスが崩れ、ボタンを押す都度わずかにレンズが上下に動く失敗を発見した。単に右人差し指でボタンを押すより、右手でカメラを握り締めるようにしながら押すと安定することも分りかけたが、撮影に夢中になってくるとなかなかいつもそう上手くは行かない。

   こういう問題意識を持ち始て以来、写真とその撮影データを公開しているウェブサイトを見ては勉強する時間が多くなった。これらはおそらく、写真を上手に撮りたいと思う人達の通過する道だろう。

   そんな中で、最近どうも引っかかる不思議な現象がある。なんということも無い青天の下で撮影した写真をプリントすると、そのシーンによって極端でないにしろ、またまたシアン被りと思う現象にぶち当たっている。色々考えてみても、PCモニターとプリントした色は、確立し始めた定番設定で問題がないはずだ。念のためグレタグ・マクベスから貰ったカラー・チャートを撮影した画像をプリント・アウトしてみても、グレーはきっちりグレーになっている。今までの試行錯誤で経験的に、グレーが綺麗なグレーにプリント・アウトされる時の設定が一番良いことが分ったから、問題があるとしたらカメラ側だろう。PCモニター上でこの画像だけ見てもシアン被りはよく判定できないが、プリントして見ると明らかに寒色寄りにシアンが勝って出ている。こんな現象が時々出てくるのだが、今のところその原因がよく分らない。

   カメラ側の設定はオート・ホワイトバランス、Adobe−RGB,色温度設定はカメラ購入時から変えずに5200度にしてある。ピクチャー・スタイルはスタンダード、測光モードは評価測光で使っている。キャノンのEOS−5Dの取扱説明書を見ても、「ホワイトバランスの色温度設定はこのように変えられる」また「ホワイトバランスの補正はこのように変えられる」とまでは書いてあるが、この設定を変えると「何が」「どの様に」変わるのかが書いてない。そのくらいは「自分でテストしたらどうだ」と言わぬばかりにそっけない。

   オート・ホワイトバランスを使う時カメラのソフトがどんな計算をしているのかのか分らないから、例えホワイトバランスに補正を掛ける設定にしても、いつも寒色になるわけではないし、どちら側にどれだけ掛けるか等変動要素が無限にあり、問題を大きくするだけだろう。一般的には高い色温度に設定して撮影したものは暖色系が増すようだから、とりあえず変更も簡単で変動要素が一つだけの色温度設定を少し高めの5400度に変更した。これで数100枚ほど撮ってみれば、あるいは何かのヒントが出てくるかもしれない。後日のお楽しみだ。
 

2007年12月27日、「やっとA3ノビに印刷し、飾ってみたら・・・」

   やっと思い通りの色にプリントし、いそいそと幾つも額縁を買い、「どうだ!」と云わぬばかりに部屋の中に掛けまわした。ところが、またまた照明の問題にぶち当たった。

   部屋の中は当然昼や夜で照明が変わる。過去3ヶ月も写真プリントの色調で苦労し色々試行錯誤を繰り返したから、プリントした写真の色調に対する感覚が高度に敏感になっている。「色調過敏症」とでも病名をつけたいくらいだ。 こんな色ではなかったはずだが・・・とプリント時の記憶をたどってよく見れば、やはり写真を掛けた場所の光が違うのだ。

   確かに人間の目は環境光に対しより敏感というか、大きく影響を受ける。自分の写真以外にも室内装飾用に幾つもオイル・ペイントや写真を掛けてあるが、今までこんなに違和感を持って見えなかった。 主観のなせる業だ。他人の描いた作品は「こんなものだ」と素直に受け入れていたが、自分が撮った写真に関しては、撮影時から全てのプロセスに関与しているから「こんなものだ」ということには絶対にならない。特に写真は表現が忠実だから、絵画とは全く違う。

   色に関しては19世紀から研究が進み、現在の国際基準はその積み重ねであることが「カラー・マネジメント」の本に書いてある。この説明するセオリーから解決策を講ずるには、夫々の写真にISO規格のD50に近い昼光色のスポット照明を当てることだ。 そんな観点から写真や絵画の画材店を覘けば、この目的のスポットライトは売っているはずだ。しかしとりあえずはこのままで良いことにした。夫々にスポットライトを付けるのは煩雑だし費用もかかる。そんなお金があれば別なレンズをもっと買いたいと思うからでもある。

   別の解決策、あるいは折衷案もある。それは、その写真を掛けた部屋でその写真を見る時間帯に合った色調でプリントすることだが、そこまで「色調過敏症」になることもないだろう。しかしここまでの経験から、コマーシャル写真や展示会用の写真は、そんな配慮も大いに必要だろうと思う。
 

2007年12月7日、「A3ノビ・顔料フォトプリンター、その後の2」

   結論から先に書くと、2ヶ月近くもシアンかぶりのプリントでトラブッたキャノンの「PIXMA Pro9500」という顔料インクを使うプリンター(日本では「PIXUS Pro9500」という)の問題が、ウソのように解決してしまった。 それまで色々設定をやり直したり、メーカーに問い合わせたりと試行錯誤の連続だった。Ver. 2.12という新しいプリンター・ドライバーとDPP Ver. 3.2.0.4とが出たので更新したが、この新ドライバーが決め手だったようだ。色々設定をやり直したのでその中に解決策がなかったと断言は出来ないが、 ドライバーの更新と同時期に解決したので、メーカーの更新履歴には一言も書いてないが、おそらくドライバーに何かしら問題点があったようだと疑いたくなる。ほとんど1500ドルもするグレタグマクベスの「アイワン・フォト」というプロファイラーを購入しようとしていたから、 無駄な出費をせずに済んだ。後は自分好みの色調に微調整すことが残るが、これはプリンターやドライバーのせいではない。

   しかしこの間におおいに勉強し実感したこともある。それは人間の目の視覚特性、あるいはその柔軟性、もっと茶化せばそのいい加減さについてだ。すでに書いたように、PC接続してあるディスプレーには外部環境の変化を自動補正するヒューイを設置してある。 ランプを点滅して書斎の光線が変化しても、ディスプレーの色調と輝度は自動的に最適化される。勿論ディスプレーの周りが明るすぎれば、最適化されるとはいっても見え方が微妙に変わるから、部屋は常に薄暗く机上をスポット照明にしてある。 問題はこんな環境の中でプリントすると、すぐにはその良し悪しが分らないから、戸外からの太陽光の近くに寄って見ねばならない。時間によっては木の陰が入ってきたり、曇り空だったり、雨だったりと一定しないから、見える色合いも微妙に変わることを経験した。 これはまさにカラーマネジメントの本に書いてあるごとく、入射光の色温度の影響を受けているから見える色合いが変わるのだ。この影響は、実物で経験すれば、すさまじいばかりだと言わざるを得ない。 それほど人間の目は敏感だというか、柔軟性があるというか、いい加減だというか、要するに絶対的ではない。

   こんなわけで、また新しく標準光源にできる特別な照明器具を買うことになった。カラーマネジメントの参考書によれば、プリントした写真の色合せにはISO規格の「D50」標準光源で見る必要がある。これは自然の太陽光とほぼ同等な、人間の目に見える紫(波長380nm)から赤(波長710nm)くらいの範囲でフラットなスペクトルを持つ光源だ。 色々なメーカーはあるだろうが、SoLux製の「4700K/36 Degrees BB」というランプと照明器具を選んだ。メーカーの宣伝によれば、ISO規格のD50に最も近いスペックだという。しかしSoLuxには4700度Kの他に5000度Kのランプもあるから、太陽光の5000度Kとこのランプ・スペクトルとどう違うかまだ良く分らない。 また後日書く機会が来るだろう。

   このように種々試行錯誤をしていて、「色」の取扱いをしなければならない業界が意外に多いことも分った。常識的に、絵画や写真、デザインなどに関係する印刷業や展示場、ミュージアムなどの必要性はわかる。 しかし色が重要な産業は、自動車の塗装、繊維の染色、衣料品、家具、その他多く色を重要視する産業がある。こんな現場で、どんな標準色の管理をしどんな環境で比較しているか、興味のあるところでもある。
 

2007年10月15日、「A3ノビ・顔料フォトプリンター、その後の1」

   幅13インチ x 19インチ、318mm x 465mm もある用紙に写真プリントが出来る「A3ノビ」プリンターを買って、フルサイズでテストプリントを始めた。前回書いたように、程度の差こそあれ基本的にシアンかぶりがある。今までEOS-5Dで撮り貯めた写真は快晴やウス曇の戸外が多く、カメラ側のホワイトバランスの設定は全て自動だ。 DPPのRaw現像も、ホワイトバランスは「撮影時設定」を指定し調整していない。こんな設定だが、程度の差こそあれプリントは常にシアンが過剰だったから、プリント時にシアンを減じマゼンタも多少減じ、すなわちイェローをかなり加え、PCディスプレーでイェロー過剰に見える状態でプリントアウトしていた。もちろんシアンの調整は夫々に差はあるが、素晴らしい絵がプリントアウトでき、そのインパクトの大きさに感心した。

   こんなやり方でテストをしていたが、中に曇り空の下での写真がありなかなか気に入った色にならない。DPPのRaw現像に帰ってホワイトバランスを「曇り」設定にしてやり直すと、ディスプレーではイェローがかっていても、プリント時のシアン調整をしなくともマーマーな色だ。考えてみれば、色温度の高い曇り空のシーンでホワイトバランスを「曇り」にすることは、とりもなおさずイェローを加える調整だ。 これは一つのヒントのようだ。この観察が正しければ、望ましくないヒントだが、要は今の設定ではディスプレー表示の色とプリントアウトの結果とはシアンにおいて合わないのだ。従って印刷用のプロファイルを特製する必要がある。あるいは一見不適当と思われる .icc や .icm プロファイルを試してみることだろう。キャノンの情報には Adobe-RGB の色空間でプリントすれば更に良い色調になるとあったから、カメラ設定もDPP設定も Adobe-RGB 空間にしてある。 ごく最近インストールしたマイクロソフトのツール、「Image Color Management 2.0」でDPPと共にインストールされているプロファイルを見ると、シアン領域が少なくイェロー領域の伸びているものがある。DPPから接続されるプラグイン、Easy-PhotoPrint Pro で選択するプリントプロファイルをデフォルトにして、DPP側で変えてみるとどうなるかだ。 しかし、Easy-PhotoPrint Pro 側にプロファイルのカスタム設定があるくらいだから、あまり効果はないかもしれない。A3ノビ一枚のプリントコストは用紙とインクで7ドル位かかるから、充分なテストで結論を出す必要がある。

   こんな進行で、DPP側の環境設定の中にあるカラーマネジメントを変更することにした。このカラーマネジメントの中に「カラーマッチング設定」があるが、それまで使っていた色空間Adobe-RGBプロファイルを、10種類くらいある用紙プロファイルの中の一番イェローが入りシアンが少ないプロファイルと入れ替えプリントしてみた。やはりだめだった。何も変わらない。 これでもう行き場所がない。Easy-PhotoPrint Pro のプロファイルをカスタマイズして使えということだ。これではPCディスプレー色調とプリントアウト色調は合致しないままだ。残る一手は、せっかく Huey で最適化しているディスプレーをマニュアルでイェローを減じプリンター色調に合わせる以外にない。 しかしそれでは本末転倒だ。何か良い方法はないものか。
 

2007年9月26日、「A3ノビ・顔料フォトプリンター」

   「A3ノビ・顔料フォトプリンター」とはちょっと妙な言葉遣いにも聞こえるが、コンシューマー向け製品のカタログにも登場するから、一般に使われだしたのだろう。「A3ノビ」とは、その寸法がJIS規格で規定されている「A3」用紙より一回り大きなもので、規格はないという。メーカーによって寸法が異なるわけだ。 「顔料フォトプリンター」とは、顔料インクを使うフォトプリンターということで、ここではインク・ジェット・プリンターのことだ。インク・ジェット・プリンターには、この顔料インクのほかに染料インクを使うものがあり、こちらの方が一般的なようだ。 宣伝文句に、顔料インクのほうが環境に対して強い、すなわちプリントした写真が長持ちするとあったから、最近キャノンの「PIXMA Pro9500」という顔料インクを使うプリンターを買った。日本では「PIXUS Pro9500」という機種だ。

   このA3ノビのサイズ、すなわち 318 x 465 mm もある用紙にプリントした写真は、素人の下手な構図で撮ったものでさえすごい迫力だ。これを見る都度、構図を工夫し撮影技術を上げて、もっと良いものを撮ろうという意欲が湧いてくる。云ってみれば一種の中毒にかかったようなものだ。 初期のディジタル・カメラやインク・ジェット・プリンターの品質と比較すれば、その技術進歩は目を見張るものがあることは事実だ。適切なMTF特性を持つレンズを付けたEOS−5Dで撮った画像をA3ノビのサイズにプリントアウトして見て、その品質は一頃の銀塩写真のそれに匹敵するようだと感じる。

   最初の興奮から覚めて何枚もプリントした写真を良く見ると、やはり予想していた問題があった。それは、「ヒューイ、Huey」の項でも触れた色調の問題だ。PCに接続し、ヒューイで色調補正した20インチのディスプレーで最良と見えた色調のイメージをプリントすると、プリントアウトされた写真に大幅なシアンかぶりがある。 とりあえず「Easy−PhotoPrint Pro」のプリント画面で、シアンを大幅に減らしイエローを大巾に増やし、マゼンタも少々調整して凌いでいる。この現象は顔料シアン・インクの、特に明部における、階調度が非常に狭いようにも感ずる。しかし一方、カラー・マネジメントをよく勉強する必要もある。 sRGB、AdobeRGB、ICCプロファイル、プリンター・プロファイル、階調保持印刷、ディジタル・フォトカラー印刷など夫々選べますと云ってメーカーで提示する選択肢は多くても、撮影からプリントアウトまで一貫したプロセスあるいはシステムが明示されていないのも事実だ。 細切れでシステム構築しているユーザーの責任といえばそれまでだが、何処のメーカーもそこまでお膳立てしたシステムをまだ揃えていないようだ。このハードウェアーとこのソフトウェアーを使えば、モニターで見た色の通りの写真印刷が出来ます、というシステムはまだ知らない。あるいはそのように示唆してはいても、何処をどう直せばよいのか皆目分からない。 ここの所をマスターすることは、やりがいのあるチャレンジだ。

   まだ何百枚もプリントしたわけではないが、10色インクの使用量やプリントの早さなど、基本性能に問題はないようだ。最高4800dpiというプリント解像度もなかなか見ごたえがある。これで、モニターに見えた通りの色調と階調がプリントアウト出来れば、もう文句はない。

   追加 (9月28日):どうも色調設定に納得が行かず色々調べた。画像処理のメインソフトは Digital Photo Professional Ver.3 を使っている。中に環境設定の項目があり、印刷用プロファイルの選択がある。購入時、このソフトを使い始めた時よく分からないから、そのまま空欄で使っていた。 今回の悪戦苦闘で、この空欄に適当なプロファイル名を選んで入れたらシアンかぶりがほぼなくなった。その後PCをゼロから立ち上げ、この蘭を空欄にしても問題が再生できない。最初に使い始めた時、この空欄に何か別の情報が入ったのだろうか。何か変だが、大きなシアンかぶりの問題は消滅した。 しかしまだ、わずかながらシアンの調整が必要だから、インク階調度の問題がありそうだ。特別なプリント・プロファイルを作る必要がある。
 

2007年8月26日、「最近のディジタルSLRカメラ」

   8月20にキャノンが改良型のディジタルSLRカメラ「EOS-1Ds Mark III」の発売を発表したと思ったら、22日にはニコンも新型の「D3」を発表した。これは、両機とも撮像素子がいわゆるフルサイズと呼ばれる、約36mm×24mmのCMOS素子を使っている。 こんな健全な業界の競争を見て、ユーザーにとっては嬉しいニュースだ。両社ともこの種の撮像素子を社内で製造できる技術を持っていることになり、今後の技術改良にも競争力が働くことを意味するから、ユーザーにとって嬉しいニュースになるのだ。

   過去にも書いたが、筆者はEOS−5Dを持っている。これもフルサイズのCMOS撮像素子を使ったものでEOS−1Dsの廉価版だが、その画像にはほぼ満足している。しかし、素人目に見ても不満足な点が一つだけある。それは撮像素子の原理に基づく赤色の飽和、すなわちボヤケと、細密なパターンを撮影した時のいわゆる偽色、あるいは偽形だ。 筆者のような素人にもその原理を知って画像を見れば、自分の撮影した写真のいたるところで目に付くからぜひ改良してもらいたい点だ (この原理については6月28日の項を参照)。

   この点に注目してDSLRカメラ業界を見れば、シグマの「SD10」や「SD14」が使っている Foveon社の供給する撮像素子に興味がある。この素子は今のところ20.7mm×13.8mmサイズのCMOSだから、その素子サイズに難点を見つけカメラ購入時点で検討候補にしなかった。 しかし前述した赤色飽和や偽色の点から撮像素子の原理を比較すれば、キャノンやニコンの使っていると思われる、コダックの開発したいわゆる「ベイヤー方式」に比べはるかに勝るものだ。

   この Foveon社は、1997年にロスの近くのパサデナにあるカリフォルニア工科大学のミード(Mead)博士によって創立され、以後撮像素子に特化しているシリコンバレーにある会社だ。Foveon社は現在シグマSD14に使われる撮像素子の製造に特化しているが、各種のSD14の使用評価や画像サンプルを見て、シグマと Foveonにもう一頑張りしてもらいたいと思う。 この原理的優秀さでフルサイズ撮像素子を出せば、その他のカメラ機能が同等ならば、現在ベイヤー方式を使うキャノンやニコンは太刀打ちできない。市場競争が増え、ユーザーにとっては大歓迎だ。

   素人考えながら、そもそもなぜベイヤー方式にこだわるのか理解できないが、おそらくディジタルカメラの発展過程に原因しているのだろう。 現在のLSI製造技術をもってしたら、何も三菱電機が検証し提唱した計算による補完法(6月28日の項参照)を使うベーヤー方式にしなくとも、あるいは Foveonのような立体構造にしなくとも、平面的にでもBGR受光ダイオードを並べた素子に出来るわけだ。緑(G)部分の素子面積を広くすればベイヤー方式の「G」に同等に出来る。一画素をBGRを含んだ正方形にも三角形にも、必要なら円形にも出来るわけだ。 7mm×6mm位の撮像素子に1千万画素も詰め込む製造技術があるのだから、BGR平面配列にしてもフルサイズCMOSで5千万画素は出来るはずだ。同等密度の立体構造の Foveon素子には理論的解像度で劣るとしても、現在のベイヤー方式の赤色飽和や偽色は理論的になくなる。 こうすれば現在の解像度ははるかに改善されるし、補完計算をやらない分画像処理も早くなる。ベイヤー方式でないBGR平面配列素子には、素人に分からない何らかの基本的欠陥があるのか、あるいは使用できない他の理由があるのだろうか。

   BGR平面配列素子の不可能な理由が分からないためあえて書くが、2006年にニコンが取得した「固体撮像素子の色分解装置」という米国特許(US Patent:7,138,663。日本でも欧州でも取っているだろう)の有用性が理解できない。 これは、一画素上に入った光を、半導体内部でダイクロイックミラー(あるいはフィルター)を使ってBGRに分光し夫々を検出するものだ。こんな複雑なことをせずとも、単純にBGR検出ダイオードを平面配列にし、カマボコ型集光レンズを付けたらいい。一画素内の入射角によるBGR感度の平均化をしたかったらレンズ内にディフュ−ザーを入れたらいい、こんな風に考えるからだ。 もちろん特許政策上はどんな特許もあったほうが有利だが、撮像素子が進化するべき方向性においての、素人なりの疑問である。
 

2007年8月19日、「ヒューイ、Huey」

   ヒューイといえば、ベトナム戦争当時から使われ始めた、有名なアメリカ軍の輸送・攻撃型ヘリコプター「Bell UH-1 series Iroquois」のニックネームを思い出す。この改良型ヒューイは今でも使われている現役だが、1400馬力もあるエンジンと2枚羽根を付けたローターの騒音は悪夢のようだ。 10マイルもの先からバタバタと低音ノイズが聞え始め、近くに来れば高音ノイズも混じるから、その音を聞くたびに体中の血が沸きかえるほどうるさい。正直のところ、うるさいという言葉を通り越す騒音で、時に住宅街の上空を飛んだりするから全くの嫌われ者だ。

   ここで書こうとする「ヒューイ」はそんな嫌われ者ではない。手のひらサイズにキュートで、全く感心する機能を持つPCモニターの色調コントローラーのことだ。このヒューイは、昔から色見本の標準を作るパントン社(Pantone Inc.)で売り出したもので、一度最適調整をすれば周りの照明に関係なくPCモニターの色調を自動的に最適に保ってくれる優れものだ。 最近のモニターは薄型でサイズも大きく、手軽に机上におけるから、一頃の馬鹿でかく重いブラウン管とは全く違い感じが良い。20インチ型くらいのものでも横1600パイクセル程もあるから、高精細な画像処理に適当だ。 こんな風に写真処理をするにうってつけのPCモニターを買って使っていたが、いつも頭の隅にあるのは、この色は正しい色かという疑問だった。メーカーの推奨する最適色調でも「クール(冷色系)」とか「ワーム(温色系)」とか選択があり、同じ色でも、室内に太陽光のさす時と夜に明かりをつけた時とでは微妙に感じが違う。 ウェブサイトに載せる写真を作るとき、この疑問がいつも頭を持ち上げ神経質になる。ウェブサイトに来る訪問者も、全ての人達が正しく色調を合わせたモニターを使っているわけではないと思うが、出来たらよい色調の写真を見てもらいたいと思うのが人情だ。

   このヒューイは、まず長さ10cmに巾1.5cm程の細長いセンサーを指示通りモニターの表面に接触させると自動的に正しく色調を合わせ、その後はこのセンサーをモニターの脇か下に立てておけば良い。設定した時間ごとに周りの照明をチェックし、自動的にモニターを最適色調にしてくれる。今まであまり調整しなかった、あるいは手軽に調整出来なかったものを随時自動的に修正してくれるのだからありがたい。 機能は充分に満足で、ソフト面で2、3の改良点はあるものの、良いものが出たものだとつくづく思う。

   ディジタルSLRカメラで適切に撮った画像は、おおむね高精細でラチチュードが高く階調度の豊かなものが多いから、イメージに合った色調に仕上げ、その感動を伝えたいと思う。そして出来たら大型画面で見てもらいたいとも思う。 残念ながら不特定多数のビジターにそんな要望を出すこと自体が不可能だから、画像を縮小せざるを得ない。過去数年、ビジターの使用しているOSやモニターのサイズと解像度、その色深度(color depth)やブラウザーの種類の統計を見ている。そしてこのサイトに使う大型画像を 800x533 パイクセルに決めた。インパクトは低下するが、大多数のビジターがブラウザーのカーソルをあまり動かさずに見れる最大値だ。 更に考慮するのは画像ファイルの種類とそのサイズ、すなわちビット数だ。最近のインターネットのスピードは一頃よりよほど高速になったから、JPEGの200KB(バイト)は許容範囲だろう。こんな所を目標にしているが、JPEGに変換後の画質低下が頭痛の種だ。 多くの場合、変換後の画像の解像度など再確認が必要になる。しかしヒューイを設置してから、色調の心配が大幅に減ったことは大きな救いだ。

   これから撮影した画像を大きく、A3位のサイズまでプリントしたいと思っているが、モニターで見た色調とプリントアウトした色調を合致させるチャレンジが待っているはずだ。そんな時、いつも一定にモニター側の色調を保持してくれるはずのこのヒューイは、不可欠な存在になるだろう。
 

2007年7月26日、「最適なDSLRカメラはどれか?」

   自分にとって最適なDSLRカメラはどれだろうという模索が始まった。1年ほども前、古くなってきたキャノンの「PowerShot SD100」の代替に「PowerShot SD800 IS (日本機種名IXY DIGITAL 900 IS)」を買って記録写真を撮り始めたときだ。 確かに画像はシャキッとしているが、何処もピントがよく合っていて写真は平面的だった。しかしマクロで撮ったものや望遠でごく近くのものを撮った時は、それなりにピントが合っている場所とボケている場所があり立体感がある。もちろんシャープさやコントラスト、色濃度などの調整で立体感は違ってくるが、ここで昔々アサヒペンタックスやその後コンタックスで撮った写真を思い出した。 記憶に残る被写界深度の差だと思いあたり、ここからいつでもそんな風に撮りたいと模索が始まったのだ。

   この模索は時間が経つに従い、心の中で「最適なディジタル・カメラ」という命題のはっきりした定義めいたものが出来始めた。まずは昔経験した感覚で被写界深度の違いで表現できる写真を撮れるカメラ。 次にはディジタル画像の良いカメラ。更に扱いやすいカメラ。最後は自腹で買えるカメラだ。

   第1の定義を満足させるのは非常に明白だった。昔と同じ位絞りを自由に設定できるカメラでディジタルならよい。これは費用と市場での選択の自由度を考えればDSLRしかない。 2番目のディジタル画像の良いものというところで多くの迷いが出た。単純に画素数だけ高ければよいのか。いろいろ調べれば、撮像素子の大きさに多くのサイズがある。この差はなんだろう。 DSLR画像センサーには主にフォーサーズ、APS−C、APS−H、35mmフルサイズなどあるが、半導体センサーの歩留まりやコストだけで誘導する、カメラ・メーカーの作戦に乗りたくない。その長所短所が必ずあるはずだと。 3、4本の古い交換レンズは持っていても、最近の新しいDSLRに使えるマウントは皆無だから、第2の命題はメーカーにかかわらず撮像素子の特性と長所短所の検討に的を絞った。カタログをいろいろ見ると、ほとんどのカメラやレンズの説明に、焦点距離に「35mmフィルム・カメラ換算で」という注釈が必ず出てくる。 これは少し異常だと感じた。そんなに35mmが比較標準なら、35mmセンサーを使ったらよいではないか。何かの都合で35mmに出来かねると暗に宣言している事と同じだ。メーカーの設備投資の過剰負担や、社外調達や技術力の問題を消費者に押し付ける、単なるメーカーの都合ではないのか。 例えば、オーディオ・メーカーが理想の音を追求すると宣伝する姿勢と大分違う。白つぶれも黒つぶれもなく、解像度が高く引き締まり、スッキリと色のりもよく、ノイズもない理想的な写真が撮れるカメラを消費者に提供するといった宣伝文句を見た記憶がない。単に画素数の大きさや、ズーム倍率や、軽さやウスさといった宣伝ばかりのように見える。 更に納得できないのが、一部のカメラの専門家と称する物書きがこれに便乗し、アマチュアに35mmセンサーや大型センサーなんて必要ないと書いているが、本人はキャノンのEOS1DsやEOS1Dを使っていたりする。35mmフルサイズかそれにより近い大型センサーだ。

   結論はEOS5Dを買った。理由は35mmセンサーがついているからだ。同じ画素数であれば、撮像素子が大きいほど1画素当りのセンサー面積が大きい。センサー面積が大きいほうが絶対感度が高いことは明白で、理論的により多くの階調を区別できる。このため素子のラチチュードが高く、深みのある写真になり、またノイズが少ないことになる。 これが写真の質を高める重要点の一つだ。この理論的なことが実用機に反映されるかは、もちろんメーカーにそれだけの技術力があればの話で、使ってみるまでは賭けの要素も多少あった。 しかし今のところカメラの造りは別にして、35mm撮像素子について何の不満もない。一つ悩みが出てきたことは、この優秀な特性のせいで、レンズの欠点があからさまに画像に出ることだ。解像度や色のりなどは、よほど慎重にレンズのMTF特性、レンズ材質や構成を検討して買う必要にせまられる。 すなわち撮影された電子映像の品質は、カメラ本体とレンズ特性の合成であるということだ。

   35mmフィルムを使うカメラは、ドイツのエルンスト・ライツ社が普及させた「ライカ版」と呼ばれるカメラ・システムが源流だ。その後80年もカメラ・フォーマットの標準であり続けた事は、単なる偶然ではなかろう。 歴史的にもそれなりに適切なレンズが開発され、カメラ本体も進化を遂げている。しかしライカ版サイズの持つ表現力、画像品質、手軽さ、といった総合的特質が広くユーザーの心を捉えてきた事実がその普及の根源だろう。過去の10年くらいを思い出しても、ハーフサイズ・カメラやAPSという24mmフィルム用のカメラが流行したが、みな短命だった。 偶然に作られたと揶揄される35mmライカ版だが、ライカ版の持つ総合的な合理性は、ディジタルになっても簡単に覆るものではないように思う。
 

2007年6月28日、「ディジタル電子映像システム−(2)」

   前回はディジタル・カメラのロー・データ現像時に、いろいろな画像調整をする自由度の範囲が非常に広いことを書いた。銀塩フィルムカメラと比べ、もっとも特徴的なことの一つである。

   近代的なカラー・フィルムを開発し市場に送り込んだイーストマン・コダック社の名前はほとんどの人がよく知っている。1935年のコダクロームだ。 しかしこのコダックが、ディジタル・カラー・カメラの基本になる撮像素子に使われるカラー映像センサーの原理を開発し、それが現在多くのディジタル・カラー・カメラに使われていることはあまり知られていない。 このベイヤー博士が1975年に開発し翌年基本特許を取ったシステムは、縦方向に2個、横方向に2個、合計4個の受光セル(画素)を一組とし、その内の2個に緑のフィルターをかぶせ、1個に赤の、もう1個に青のフィルターをかぶせるものだ。 緑が2個ある理由は、「こう配列することによって三原色に感ずる比率が、人間の三原色の視覚的鋭敏さに当てはまる」とベイヤー特許に記載されている通り、緑によりよく感ずる人間の視覚特性に合わせるためだ。

   キャノンがそのように見える模式図を公開しているから、ベイヤー方式の映像センサーを使っていると仮定する。例えばEOS-5Dの仕様書によれば撮像素子の有効画素は1280万画素だから、640万画素に緑フィルターをかぶせ、320万画素に赤の、320万画素に青のフィルターをかぶせてある計算だ。 しかしよく考えてみれば、こんなフィルターをかけた受光セル(画素)のうち緑の光に感じるところは緑の情報だけ、赤に感じるところは赤の情報だけしかない。すなわち、例えば緑の受光セル(画素)には基本的に赤や青の情報はないのだ。 しかしEOS-5Dの仕様書には有効画素数1280万画素だと書いてある。すなわち記録された1280万画素の全てに緑・赤・青の情報が夫々入っていなければちゃんとした写真にならないことになる。 ではこの場合どうやってその本来なかった情報を補完するのかというと、カメラの電子回路の中にマイクロ・コンピュータのチップを入れ、夫々の受光セル(画素)を順番に読み出しながらディジタル変換し、例えば緑の情報しか入っていない画素には、その上下・左右にある赤や青の平均値または最適値を夫々計算して入れるのだ。 従ってこれは計算された色濃度情報で、撮像素子の半分から三分の二はいわば人工的に計算された色といえるわけだ。理論的に言えば、シャープなエッジや細密に繰り返すパターンなどには、レンズ性能以外に実像と違う色や形が出る可能性がある。こんな場合に備えて撮像素子の前にローパス・フィルターを入れ、レンズで結像したものを少しぼかし、その影響を軽減している。 しかし一方人間の目もあてにならないというか、うまく出来ているというか、そこまで判別できないからこういう方式でもほとんどの場合あまり違和感がない。すなわち実用的な方法なのだ。こうして1280万画素の全てに緑、赤、青の濃淡情報を入れた、3種類のイメージを重ね合わせて表示するとカラー画像として見えるわけだ。 ただし、キャノンのEOS-5Dが実際このような補完方式をとっているか筆者には分からない。

   このように長々と書いた理由は、最近のディジタル・カメラは、実用的な範囲で計算によって画像を造っている事を言いたかったのだ。ディジタルSLRカメラのロー・データ現像時の画像調整範囲が銀塩フィルムに比べて格段に広いことは、緑、赤、青3種類のディジタル画像があるため、これをいろいろ計算して調整が出来るからだ。 従ってこれらを調整し、シャッターを切った人の感性に出来るだけ近いイメージを造るのは当然の流れだ。

   さらにこの延長線上にはいろいろなソフトが開発されて、キャノンのDPPのVer.3.0が小規模ながら取り入れたように、写真の仕上がり色調やイメージを作者の想うとおり簡単に定義したり変更したりできる様になるだろう。 絵画との相違点は、レンズで捉えた写実的な輪郭に、感性による色彩と陰影を強調するものだ。
 

2007年6月18日、「ディジタル電子映像システム−(1)」

   今使用しているカメラは主にキャノンの「EOS-5D」に「EF24-70mm F2.8L USM」ズーム・レンズを装着し、副として「PowerShot SD800 IS (日本機種名IXY DIGITAL 900 IS)」を使用している。 どちらもディジタル・カメラだ。

   二昔も前にペンタックスやコンタックスのSLRフィルム・カメラを使ったのを最後に、カシオの「QV-200」や富士フィルムの「FinePix 4900 ZOOM」、キャノンの「PowerShot SD100」などのディジタル・カメラでスナップや記録写真を撮る以外に、ほとんど写真らしい写真を撮らなかった。 小さい撮像素子のディジタル・カメラの絵に慣れた目には、EOS-5Dのフルサイズ撮像素子が造る絵は新鮮で、これは昔撮った写真だと思った。

   昔のカメラに比べれば、今のディジタル・カメラはどれをとっても技術的に素晴らしい進歩をしている。カメラに取り込んだ電子映像をインターネット経由でプリントに出せば、返ってくる写真はどれもきれいに仕上がっている。 昔はカラー写真の色調が偏っていて色がおかしいと焼き直しに出したこともある。例えば赤い花が画面の半分も占めた構図は、赤色が不足して青っぽい写真になることがよくあった。ディジタル映像になってからそんなことはまずない。 ダイヤルを自動に合わせれば、露出からピント合わせまで全自動だから、ファインダーに構図を入れてシャッターを押すだけで素晴らしい写真が取れる。さらに自動的にフラッシュも焚かれるし、色温度も自動調整され、必要ならISO感度までも自動調整される。 本当にユーザー・フレンドリーになったものだ。

   特にディジタル・SLRカメラはその記録方式がユニークだ。各社夫々違うフォーマットのロー・データとして映像が記録されるから、これを特殊なソフトウェアーで解読して表示することになる。もちろん圧縮されたJPGフォーマットで記録することもできる。 それ以外のほとんどのコンパクトなディジタル・カメラは、ロー・データの解読をファームウェアーでやって圧縮されたJPGフォーマットで記録される。ロー・データで取り出すことはほとんどの場合できない。

   このようにロー・データで記録されるカメラは、ソフトウェアーで解読することを「現像する」と呼ぶようだが、この現像時に多くの自由度がある。画像の明るさを調整したり、コントラストや解像度を調整したり、色調を変えたり、階調度のトーン・カーブを変えたりして元の画質を殆んど低下させずに調整できる。 これらは銀塩フィルムで出来たとしても、非常に範囲が狭く、技術的にも至難の業だった。電子的なディジタル映像では、いとも簡単にやってのける。こんな電子映像を記録として考えても芸術として考えても、その広い自由度が写真の性格を変えつつある。 フィルム・カメラでたたき上げた誇り高いプロの中には、そんなディジタルSLRカメラのメニューの中から自分で撰んだピクチャー・スタイルやカラー・マトリックス、あるいは現像パラメーターなどで撮影した映像を評価して、「このカメラにもっと色のりがあれば」などと、カメラのせいにしてしまうコメントをときに見かける。 これはちょっと的外れではないかとも思う。現像時の自由度をフルに使って修正すればいいではないかと思うためだ。 自由度のほとんどない銀塩フィルム・システムでは、その特性をよく頭に入れて、その長所をフルに引き出す撮影条件の設定がプロのプロたる重要技能の一つだった。しかしディジタル映像と自由度の高い「現像」が出来る電子システムでは、プロのプロたる重要技能はもっと別のところにありそうだ。 プロを非難しようと書いたのではなく、ディジタル電子映像システムの進化した特徴を書きたかったのだ。

(続く)


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